Yoko Shimizu 清水陽子 | Text / Review
Innovating the world through art and science - Latest news from our biology design lab. 科学と芸術を融合する現代芸術家、清水陽子の公式ホームページ。バイオを中心に先端テクノロジーを用いたデザインラボ「Lab +1e」から最新情報を発信中。
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Text / Review

Biological Art – 生物学的アートへの期待
馬場駿吉 (名古屋ボストン美術館 館長)

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清水陽子の作品に初めて出会ったのは2008 年3 月に開催された「名古屋発 現代美術展 D アートフェスティバル」の会場。若い作家たちの様々な試みが響き合う中でも清水の作品にとりわけ強い誘引力を感じてその前に足をとどめさせられた。

私たちが肉眼的にとらえて魅惑される身体のうねりも、顕微鏡下では一見無表情ながら、実は個性的に分化した微細構造と機能を持つ細胞群の総和として成り立っているのだ。そのようなことは今更口に出すまでもない事実なのだが、私たちは身体の美醜の判断を本能的な感覚にゆだね、身体美の本質論など意識の下層に沈めたまま日常を送っている。しかしこの初見時、私の足をしばらく作品の前に引きとどめさせたのは、理に固められた言葉でそれを解説的に示すのではなく、様々な想像力を覚醒させる美術的イメージによって、生命の器であり、死の器でもある身体の両面的な美学が提示されていたからに違いない。

清水が神戸大学発達科学部(生物化学専攻)を卒業した後、本格的に美術家への道を疾走することになったことを知ったのはその後のことなのだが、そうした先入観念にとらわれることなく、清水の作品に初めて出会った折の印象をありのまま、ここへ書き留める機会に恵まれたことを喜びたい。
 
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以来、医学と美術との間に長い時間を過ごして来た私的体験を重ねて、できる限り個展に立ち会うことになったが、2010 年3 月~5 月、西武渋谷店での個展を見た時、「Biological Art(生物学的アート)と呼ぶのがふさわしいのではないか」と伝えた。

それに引き続いて開催された名古屋のギャラリーAPA での個展時、印刷物の中にこの言葉を見出して、私の命名をしかと受け止めてもらったことを確認した。この時、気道粘膜の表面を覆って稲穂のように波打つ線毛細胞の顕微鏡像を思わせる平面作品(ミクストメディア)が出展されていたのを鮮明に記憶している。
彼女の最近のエッセイの中でも「生命のみずみずしい美しさや、自然の美しい数理と芸術性」をこれからも制作のテーマとして「科学と芸術を融合した新しい分野を開拓すべくがんばっていきたい」と述べている。

さて、今回の個展におけるBiological Art はどのような増殖を示しているのだろうか̶楽しみにしたい。
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「科学と芸術 ─ 対極か両極か」
清水陽子(現代芸術家)

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「理系なのにどうして芸術の世界に入ったんですか?」展覧会の会場で必ず聞かれる質問です。会場には生きた細胞を利用した作品や、成長を続ける有機結晶が並び、これらの作品はアトリエと生物化学の実験室の両方で作られています。

子どもの頃から芸術が好きで、絵を習っていましたが、生き物やその美しさに惹かれて大学では生物化学を専攻していました。その影響で生命のみずみずしい美しさや、自然の生きた数理性と芸術性が、主な制作テーマになっています。芸術と科学の2つの分野を融合した時、人間の力を超越した果てしない美しさや新しい表現が見つかるのではないかと思っています。

対極にあるように思われがちな科学と芸術ですが、実は非常に密接な係わりがあり、またとても似通った分野でもあります。最大の共通点は非常にクリエイティブな分野だということです。常に新しい切り口で、まだ誰も見た事のない未知の世界を探求します。

ニュートンが「落ちたりんごは地球に引っ張られているのではないか?」と万有引力を発見した時、ピカソが「いろいろな角度から見た物の形を一つの画面に表現できるのではないか?」とキュビズムを発表した時、「そんな突拍子もない事!」と当時の誰もが思ったことでしょう。その発想は人々の考えを大きく変え、今では新たな常識となりました。

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既成概念にとらわれない柔軟なひらめきとインスピレーションで、世の中の批判を恐れず日々実験を繰り返し何かを追求する、科学者と芸術家という生き方も似ているような気がします。

また科学の知識を深めることで、芸術を新たな次元へ導くこともできます。科学者で芸術家でもあったレオナルド・ダ・ヴィンチが解剖学を追求する事で誰よりも正確に肉体を描写したことはあまりにも有名です。また現生のアーティストでは、アメリカの現代芸術家マシュー・バーニーなども医学出身の作家で、幻想的でありながら、極めて生々しくリアルな描写は医学者でなければ表現できない世界です。

日本の芸術家が世界で勝負するためには、欧米の模倣ではなく日本ならではの強みを生かす必要があります。今の日本が世界に誇るもの、それは自動車産業やエレクトロニクスでもわかるように、最先端の科学技術とテクノロジーです。そういう意味でも日本人の芸術家が科学を融合するというのは自然なことではないでしょうか。しかも生物学のような生きた科学を追及するアーティストがいてもいいのではないかと思っています。芸術によって新たな科学の発見を、科学によって新たな芸術の発見を。

これからも芸術と科学を融合した新しい分野を開拓すべくがんばっていきたいと思います。

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なごや文化情報 清水陽子

 

名古屋文化情報、随想、3ページ
https://www.bunka758.or.jp/id/bunkajyoho/bunkajyoho201303.pdf

 

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「死と再生の物語」  田中由紀子(美術批評/ライター)

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昨年、福岡市の三菱地所アルティアムで行われた公募展「For Rent For Talent! 4」に続き、この3月に開催された「名古屋発・現代美術展 Dアートフェスティバル」でもグランプリを受賞した清水陽子。今展では、縦横が約150センチメートルもあるレリーフ状の作品を中心に、立体、半立体、映像からなるインスタレーション《TsubomiΦ》を展開し、会場を異空間に変貌させた。

正面に据えられた大きな額縁の中には、帯状の半立体が花びらのように連なり、女性器を彷彿させるフォルムをかたちづくっていた。表面は丸形や花形の浮き彫りでびっしりと埋め尽くされ、先端は額縁からはみ出している。そのさまは、海中にうごめくタコやイカの足のようでもあり、白骨化したサンゴがこびりついた岩肌のようでもあった。中央で目を閉じる少女は、眠っているのだろうか、死んでいるのだろうか。あるいは、これから生まれ出るのを待っているのだろうか。水の泡を想像させるカッティングが施された不織布が、床に敷かれていたことからも、海底に及んだ私の発想はそれほど的外れではなさそうだ。
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清水は、今回と同様のモチーフからなるインスタレーションに昨年から繰り返し取り組んでいるが、そこには相反するイメージの共存をしばしば見出すことができる。たとえば、女性器のグロテスクさと少女の清らかさ、あるいは、軟体動物が放つ動的な生命感とサンゴが醸し出す静的な死の気配が作品には混在している。また、生きているようにも死んでいるようにも見える少女や、生命を育みも奪いもする海は、生と死の両方を見る者に想起させる。このように逆のイメージを組み込んだり、両義的なモチーフを用いることにより、生と死が表裏一体であり、その循環こそが自然界における生命体の美しさであると示唆しているように思えた。

学生時代には生物学を専攻していたという清水。彼女ならではの、自然や生命体への興味やアプローチから生まれた作品が、美しさとおどろおどろしさや生と死の境界に死と再生の物語を立ち上げることを今後も期待したい。
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PEELER 清水陽子

 

オンライン・アート・マガジンPEELER
http://www.peeler.jp/review/0904aichi